落語のいっかくめ!

カジュアルな落語ネタ紹介を目指してますっ

【落語】恐怖、何度も死ぬ男! じっちゃんの名に掛けない名推理の話

 

 

えー、本日も一席お付き合い願います

 

 

ちょっと古い時代に
火曜サスペンス劇場」という
テレビ番組がありまして

毎週毎週起こる殺人事件を
2時間かけて解決していく
OP映像がやたら怖いドラマでした

 

その番組のサブタイトルが
個人的にとても好きでして


どういうものかと言いますと
最近のラノベのような長文タイトルで
番組の内容を表現していました

 

例えば

「身元不明の死体はお父さん?
 娘の悲痛な叫びが暴く
因縁愛憎劇の主人公はまさか」

とかですね

 

おそらく、新聞の番組欄で
あらすじを出すことで
興味を引くためなのではないかと
推測しています

 

個人的に好きなのは

「火災調査官・紅蓮次郎
 この家じゃない…!!
間違えて放火した女?」

ですね

もう、字面が大好きです

 

 

このような推理サスペンスドラマが
過去25年も放送されて
愛されていたところを見ますと
謎を解き明かしていく事は
古くから愛されてきた
娯楽なのではないでしょうか

 

さて、今回は
そんなサスペンスドラマに出てきそうな
何度も死ぬ男のお話です…

 

 


 

 

大変、大変、大変だよ!

おや、お隣さん、そんなに慌ててどうしましたか?

お、表通りの方に、大きなお屋敷があるじゃない?

ああ…、あの会社経営をされている家ですね

そこの家の旦那さんがまた死んじゃったんだよ!

…また?

そう、またなんだ!

もうこれで3回目だよ…

え…?

ちょっと待ってください、人間は一回死ねばそれっきりですよ?

…?

そうだね?

じゃあ、1回目も2回目もないでしょう

いやいやいやいや、そんなことないよ!

だって、僕、1回目の時も2回目の時もお通夜に出たもん!

んん…?

あ、わかりました!

要するにバイオ的な!
ハザード的なあれですね!

じゃあ、話は簡単です

今度こそ、その人の頭に正確なエイムでヘッドショットを決めて脳汁ぶちまけてあげなさい!

ご遺体にそんなことしないで!?

何を言ってるんですか、2回も蘇生してるんですよ!

タチの悪い悪霊的な何かに決まってます!
また蘇生する前に完全に息の根をとめないと!

そ、蘇生!? そんなの誰もしてないよ!?

……?

……?

よくわからないですね、詳しく話してください

う、うん、お屋敷にとても美人の奥様がいるんだけどね?

ふむふむ

その奥様の3人目の旦那さんが亡くなっちゃったんだよ!

……ああ

つまり奥様は既に2回結婚して、2回旦那様と死別していたと

そして再婚した3人目の旦那様とも、先日死に別れてしまったということですね

そうそう!

だから旦那さんがまた死んじゃったって言ったんだよ!

……言い方がわかりにくいです

う、ごめんなさい…

まったく…
あなたも奥さんのいる身なんですから、しっかりしてください?

危うく奥からショットガンを取り出してくるところでしたよ…

なんでショットガンが奥にあるのさ…

とにかく、今からお通夜にいくから、ふくさを貸してほしいんだ

ああ、そういうお話でしたか……えっと…

はい、どうぞ、ふくさです

ありがとうっ!

でも怖いよね…

お屋敷には本当に悪霊が憑いてるのかも…

といいますと?

だって、1人目の旦那さんが亡くなってからまだ2年だよ!?

その間に2人目の旦那さんも3人目の旦那さんも亡くなって…
はっきり言って異常だよ!

奥様に悪霊が取り付いてて、旦那さんを祟り殺してるのかも!

……確かにおかしな話ですね

…これは連続殺人の匂いがします

ええ!?そうなの!?

はい、私のじっちゃんの名に掛けた頭脳がヤバい事件の予感を感じています

よかったら詳しく話してみてください

その謎、町内の叡智たる私が、解明してみせます!

う、うん、1人目の旦那さんだけどね

ちょっと痩せ気味の背の高い人だったんだ

なるほど
マリオかルイージかで言うとルイージな人だったんですね

う、うん、どちらかといえばルイージだね

奥様とはすっごく仲が良くって町内を歩くときとかも、ずっと腕を組んでたりしてたんだよ!

ふむふむ…

でも結婚して半年くらいかな?

旦那さん、どんどんやせ細っちゃってきて…

最終的には真っ青な顔色が続くようになっちゃって

まだ若いのに遂にはなくなっちゃったんだ…

なるほど…
つまりルイージワルイージのようになってしまったと

…そうだけど、その例え何かやだなあ…

ともかく、それが最初の殺人ですね

いや、まだ殺人と決まったわけじゃないから…

で、2人目の旦那さんは1人目の旦那さんと違って体の大きな人だったね

筋肉ムキムキのたくましい人だったなあ

ドンキーコングみたいな人だったんですね

なんでいちいち任天堂キャラで例えるの?

とにかく、再婚した旦那さんも奥さんとはすっごく仲良くってね

よくいちゃいちゃしながら町内を歩いてたなあ

…よくイチャイチャする奥様ですね?

そんなにイチャイチャ遊んでて、会社経営の仕事は大丈夫なんですか?

うん、優秀な従業員がいっぱいいるからお店のお仕事は勝手に回るみたい

だから、奥様夫婦は普段は会社には行かずに、お屋敷で二人の時間を過ごしてたみたいだね

不労所得…うらやましい限りです

でも、それも長くは続かなくってね

2人目の旦那さんもだんだんやせ細ってきちゃって…

1人目の旦那さんみたいに最期は真っ青になって亡くなっちゃったんだ…

……ふむ…?

で、半年前に再婚した3人目の旦那さんは若くって、リンクみたいな人だったんだけど

……
(なんで先に例えちゃうんですか)

この人も最近青白い顔になっちゃってて、危ないかな?なんて噂してたんだけど…

昨日、お亡くなりになっちゃったみたい…

……ふむ…何点か確認させてください

奥様はおいくつの方なんですか?

えっとね、まだお若いよ。29歳くらいかな

すごく美人でスタイルもいいんだよ!
モデルさんみたい!

……もしかして、3人目の旦那さんも奥様とはとっても仲が良かった…?

そうそう!よく二人で買い物してたね!

……もしかして、今までの旦那さんたちと薬局によく行ってませんでしたか?

なにかこう…箱買いしてたとか…

よく知ってるね!そうそう!
薬局で何かいっぱい買ってるのを見かけたね!

……

謎は全て解けた!!!

 

 


 

 

ヒントはすべて揃いました。
あなたは真相が見えましたか?

解決編はこの後すぐ!>

 

 


 

 

…結論を言いますと、悪霊でも他殺でもなさそうですね

えええ!?
もうわかっちゃったの!?

…まあ、ある意味他殺かもしれませんが…

奥様はとてもスタイルのいい魅力的な方だったんですよね?

うんうん、そうだよ!

その夫婦が働きもせずにずっと家で二人きり…

そして外でもベタベタするくらい仲がよくて…

なおかつ働かなくても裕福な生活ができる…

そして薬局での箱買い…

……まあ、それは旦那さんも短命でしょうね…

え? え? 短命?
どういうこと?

え、このヒントでわかんないんですか!?

う、うん、もう少しわかりやすく教えてくれる?

つまり、ミステリー的な叡智の話ではなく…

エイチの話だったということです!

……

え……なんでドヤ顔してるの???

……

…えっとですねえ…

ほらほら、昔から言うじゃないですか

新婚は 夜することを 昼もする

…そういうことです

……

昼寝のし過ぎってこと?

ちゃうわい!

夫婦が夜にすることなんて、一つでしょう!?

……

……ああ、セミ取り!

夏休みに冒険する小学生か!!!
あんたら夫婦はどうなってるんですか!?

えええ…そんなの言われても…

では、例えば食卓のシーンを想像してください?

うんうん

場面は夕食です

日が落ちかけてる夕刻で、ほんのり薄暗い部屋の中でですよ

メニューはそうですね…和食にしましょう

ブリの塩焼きと味噌汁と漬物、白米のメニューです

あなたが食卓に座ると、奥様がふんわりとご飯をよそったお茶碗を差し出してくれるんです

当然あなたはそれを受け取ります

受け取るときに、手と手がソッ…っと触れます

相手の温かいぬくもりが指先からゆっくり…伝わってきます

周りには…だぁれもいません…

ふっと目を上げるとそこには優しい目をした奥様がいます

その優しい目はじっと見つめるとかすかに潤んでいます

そしてその距離はお互いの吐息がわかるほどで…

……

…短命でしょう?

え、よくわかんない

理解力が雑魚キャラですか!!

こんな恥ずかしい状況描写までさせといて、なんでわかんないんですか!!!

一周して高度なドSのプレイですか!?

そそそ、そんなこと言われても…!

えー…、ご飯の時でしょう…?

そうです

奥さんと二人きりなんでしょう…?

そうそう

奥さんがお茶碗を差し出してくるでしょう…?

いいですよ、イメージできてます

そのお茶碗を受け取るときに手と手が…?

あ……そういうこと!?

そういうことです!

つまり奥さんの指先に即死毒が!?

そういうことじゃないです!

あああああああ、どうしてわかんないですかねえ…

ご飯! 

お茶碗! 

手渡し!

手が触れる!

周り誰もいない!!

相手、美人!

オデ、ドキドキする!

オデ、短命!!

なんで急にオデキャラになるの…?

……

あ、ああああ…!

もしかして、触れるのって手だけじゃない!?

そおおおゆうことですよおおおお!!

なななななああんだあ、そういうことかあ…

もっと、そういうことはもっとオブラートに包んで教えてよ…

つーつーみーまーしーたー!
ちゃああんと何重もの「おくすり飲めたね」に包みましたあ!

あーー、でもそういう……

まあ、よくわかりませんが、夫としては幸せな死に方ではあるんじゃないですか?

奥様と愛して愛された中で死ぬんです。ある意味本望かもしれませんよ?

……お隣さん…

含蓄深く夫を語ってるけど、独身だよね?

~~~~~~~っ!!!

あ、そろそろお通夜の時間だから、行ってくるね!
ありがとうございましたー!

 

 


 

 

ただいまーー!
ふくさ借りてきたよーーー

遅い!何やってるの!?

わ、ご、ごめん、お隣さんとの話が長くなっちゃって

あーーー、もう、ちゃんとお礼言えたの!?失礼なこと言わなかった?

うん、たぶん大丈夫!

ほんとかなあ…あんた、たまに無神経なこと言うしなあ…

ああ、ほらほら、早く行かないと間に合わないよ!

うん、じゃあ、行ってくるね!

あ、ちょっと待って、ちょっと待って!

向こうでお腹すくと困るから、ご飯を食べて行って!

えええ!?

え、何をそんなに驚いてるの!?

…今、夕方で薄暗いんだよ!?

そうだね?

この家には僕たち二人きりなんだよ!?

あたしたちの家だからね?

……ごはんを食べるの…?

だーーかーーらーーー、
そういってるじゃない!

……エッチ…

はぁ!? 

……僕を短命にしようってことだね…?

わかった…!
……ちゃんと受け止めるよ…!

ちょっと何言ってるかよくわかんないけど、ご飯にするから早く座って!!

あ、味噌汁もあるから飲んでいきなね!

……それ、4日前の味噌汁だけど、大丈夫かな…?

あっためれば大丈夫、大丈夫!

ご飯はてんこ盛りにしとくね!!
おしゃもじ、ペンペン!っと!

ああ……日本昔話のご飯みたいなのができあがってる…

ね、ねえ、もっとふわっとよそってよ…

え、なんで?

だって、雰囲気が出ないじゃない…

はぁ!?よくわかんないけど小盛りがいいの!?

もう、めんどくさいな……

はい、盛ったよ!!(シャー!

うわあ!?お茶碗をテーブルに滑らせないでよ!?

コントロールうまいでしょー

それをやっていいのは、バーテンダーさんだけだからね…

そうじゃなくて、お茶碗を手渡しで渡してほしいんだけど…

はああ?
面倒くさいんだけど!?

いや、ここが短命で重要なところなんだよ!

だから何よそれ…?

もう、しょうがないなあ…

はい、お茶碗をどうぞ!

ありがとう!

うんうん、手と手が触れてる…

周りは薄暗くて……

他には誰もいなくって…

ふっと顔を上げると、彼女の潤んだ顔が……

あれ、いない!?

おぎゃあああああ!?
臭いとおもったら味噌汁が焦げてるーー!?

…一瞬でキッチン行っちゃった…

ふーーー、あぶなかったあ…

あ、味噌汁が焦げ焦げだけど、もったいないから食べられるよね?

…ねえねえ

うん?
今度は何?

これからも、末永くよろしくね

はあぁ?急にどうしたの?

だって、どうも僕は長命みたいだから

 

 

古典落語「短命」より

 

※本記事内の画像はすべてAI生成画像を使用しています。